近年、油中液滴などの極微量反応場を利用した化学反応の高速化・省スペース化、あるいはマイクロマシン技術による液滴生成・操作技術に関する研究が精力的に行われている。本研究では、静電界を利用した油中液滴生成・液滴操作によるバイオ計測分野における新技術の創生を目指して研究を進めている。今年度は静電界を利用した油中液滴型マイクロリアクター生成技術・液滴操作技術の開発とバイオ応用への可能性を検討した。本研究では、まずキャピラリーに充填した溶液に直流高電圧を印加することで油中(シリコーンオイル、フルオロカーボン)に微小な液滴を生成した。その結果、印加電圧とキャピラリー内径によって液滴の粒径が変化した。生成した液滴は、電荷を保持しているため静電気的斥力により互いが融合することなく規則的に配列した。また、液滴生成に伴う生体高分子への影響について調べた。ここでは上記液滴生成においてDNAを含んだ溶液を水相として用いて実験を行った。数kVに及ぶ高電圧印加、溶液の化学的な変化(pHなど)、水-油界面を通過する際の物理的損傷などが考えられたが、直鎖状および環状DNAに顕著な影響がないことがゲル電気泳動により示された。また本研究の遂行中に、不平等電界を用いた液滴輸送・融合技術を着想し、興味深い結果が得られた。油中に設置したナイフ状電極間に直流高電圧を印加することで、滴下した液滴が往復運動しながら強電界側または弱電界側へ移動させることが可能であった。また、この電極対を左右対称に設置することで液滴が往復運動しながら互いに近づき融合することを確認した。この現象は従来液滴の輸送に用いられている外部ポンプにより駆動する連続相の流れに寄らない新しい手法であり、バイオ応用に向けた液滴操作技術になり得ると期待される。
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