GaAs中の窒素アイソエレクトロニックトラップなどの不純物発光中心に束縛された励起子は、ホスト結晶と不純物の組み合わせで決まる固有の電子状態によって特定の発光波長を示すため、多数の不純物発光中心が関与したスケーラブルな相互作用を利用できる量子状態と見なすことができる。本年度はまず、第一近接窒素ペアと第四近接窒素ペアに束縛された励起子からの発光線の温度依存性に注目し、第一近接窒素ペアに束縛された励起子からの発光線において励起子-フォノン相互作用が顕著に抑制されており、その起源が電子波動関数と正孔波動関数の相関相互作用であることを明らかにした。さらに、第四近接窒素ペアに束縛された励起子と励起子分子からの発光線のスペクトル形状から、励起子-音響フォノン相互作用の交換項に起因すると考えられる、束縛励起子分子発光線における顕著な音響フォノンサイドバンドを観測した。束縛励起子-フォノン相互作用の大きさの評価は、高温で動作する固体光子源の実現に向けた重要な知見となると期待できる。一方、従来の窒素デルタドーピング技術では、窒素ペア面密度が1μm^<-2>以下となる希薄窒化領域において、ブロードな背景信号が束縛励起子発光線に重なってしまうという課題があった。そこで成長条件の最適化を行い、原子層窒化後のGaAsキャップ層の成長温度を従来よりも低温にすることによって、背景信号の抑制を実現した。ブロードな背景信号の抑制は、GaAs中の窒素アイソエレクトロニックトラップを利用した固体光子源の実現に向けた重要な知見である。
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