研究課題/領域番号 |
22760233
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
河原塚 篤 早稲田大学, 高等研究所, 准教授 (40329082)
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キーワード | 分子線エピタキシー / 窒化物半導体 / InN / 超格子 / 太陽電池 |
研究概要 |
これまでの研究で、基板温度に依存しない窒素供給源として、RFプラズマセルを導入し、これを用いたInN結晶成長手法の確立を目指し研究を行ってきた。この結果サファイアC面およびMgO(111)面上に内部歪の少ないC面InNの結晶を成長することが可能となった。本年度は、InK/GaN超格子擬似混晶を用いた太陽電池の基礎技術である無極姓InNの成長を試みた。具体的には、半極性であるサファイアR面基板上にInNの成長を行うことにより、A軸配向したInNの結晶を成長し、X線回折測定により面内配向性を明らかにした。現在は結晶性および平坦性の向上を目指して基礎的な成長条件を確立するための研究を進めている。 さらに、超格子構造太陽電池の特性評価の為に理論解析を行った。これまでに、超格子構造の閉じ込め効果により室温でも励起子が安定に存在することを実験的、理論的に検証してきた。本年度は、二次元構造における光学特性を定量的に評価し、バルクの特性と直接比較する手法を開発した。超格子の吸収率を定量的に評価するためには、構造中での光の減衰および吸収係数の深さ依存性を考慮に入れた定式化が必要である。深さに依存する吸収係数は電子と正孔の包絡関数の重なりに比例し、局在の強い系では主に井戸層で吸収が起こる。素子全体の吸収率は局所的な吸収係数の積分で表すことが可能であり、一様な系すなわちバルクではこれまでに用いられてきた吸収係数、吸収率に一致する。この手法をもとに、計算を行った結果、超絡子とバルクは同程度の吸収率を示すことが明らかになった。励起子の安定性を考え、超格子では励起子吸収、バルクでは電子・正孔対吸収が起こるとすると、超格子では吸収率が平均で10%程度増加し、バンド端付近ではその差は一層顕著である。この結果は、超格子活性層の導入が、光吸収の増大による太陽電池の効率向上に有効であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超格子構造太陽電池の理論的な解析は本研究の開始以降に発展的に始めた研究であり、これまでに、基礎的なシミュレーション、解析の手法を確立しており大きな進展があった。一方で、結晶成長についてはInN/GaN超格子構造の基礎技術であるInN成長を進めている。現在までに基礎的な技術を確立し高品質化に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
結晶成長については、InN成長の技術を確立したうえで、GaNとの超格子構造の成長へと進めていく。現在の課題はInN成長における膜厚の精密制御である。短周期超格子構造の成長には原子層単位の膜厚制御が不可欠であり、まずこの技術の確立をはかる。そのうえで、低温GaN成長技術をとりいれ、実際の超格子構造の成長へと研究を進める。さらに、新たに始めた超格子構造の理論解析をさらに推し進め、実際に結晶成長を行っている、窒化物半導体ヘテロ構造のシミュレーションへと研究を進めていく。このためには格子不整合による歪、内部電界等を考慮する必要があり、これらをとりいれた解析手法の拡張を進める。
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