本研究は、量子カスケードレーザ(QCL)としては新しい材料であるIII族窒化物半導体材料を用いて未開拓領域5-12THz帯のQCLを開発することを課題とした。当該年度において、「高品質厚膜成長のための結晶成長技術の開発」と「QCL素子構造の作製とその電流注入評価」を行った。 結晶成長技術の開発では、成長表面に析出した金属液滴を熱によって蒸発させながら成長を繰り返す、Droplets Elimination by Thermal Annealing(DETA)法を開発したことによって、これまで困難であった精密な原料供給比制御を容易にし、かつ長時間の成膜を要する厚膜成長を可能にした。また、DETA法を用いることで表面平坦性の向上、転位密度の低減、構造特性の向上に効果があることが分かった。 QCL素子構造の作製では、まず高品質GaN基板及びサファイア基板上AlGaNテンプレート上にGaN/AlGaN系量子カスケード構造をRF-MBE法で作製した。この時、原料供給量の厳密な制御を行うことによって、1MLの量子カスケード構造を実現した。その後、デバイスプロセスを行い、表面金属プラズモン導波路型のQCL素子構造を作製した。QCL素子構造への電流注入評価では、サブバンド間遷移発光に起因する1.4-2.8THzまでの発光スペクトルを観察することに成功した。 電流注入による窒化物半導体からのサブバンド間遷移発光を実証した結果はこれまでに例がなく、世界的にみても非常に画期的な成果である。
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