研究概要 |
本研究では,複数のノード(送信機・受信機)から構成されるマルチユーザ通信システムにおける符号化レートの限界(通信路容量域)の解析と,その限界を達成する具体的な符号構成法を議論する.また,マルチユーザ通信システムにおける符号化方法を情報セキュリティ分野に応用する. 平成23年度の研究では,複数の送信機とひとつの受信機から構成される多重アクセス通信路に対して,前年度に開発した連接符号化法の改良を行った.連接符号化法では,外部符号と呼ばれる通信路符号の各符号シンボルを内部符号と呼ばれるシンボルサイズの小さい通信路符号の符号語に対応させて符号化操作を行う.本研究では,符号長に対して線形オーダの時間計算量で復号を実行できる誤り訂正符号を外部符号に採用することにより,連接符号の全体の復号計算量も符号長の線形時間で実行できることを示した.また,複数の受信機が通信ネットワーク上に存在するとき,各受信機が全ての送信メッセージを復号する場合(複合多重アクセス通信路)も,同様の性能が達成できることを示した.提案した符号構成法により,効率性の理論限界を達成し,かつ計算量をさらに低減できる符号を構成的に与えた点に,本研究の有効性がある. また,盗聴者が存在する通信システム(盗聴通信路)において,補助者が存在する時に達成できる符号化レートの領域を改善する方法を提案した.これはユーザ間協調通信の情報セキュリティへの応用とみることができ,協調者の存在により送信メッセージの秘匿性を保ったまま通信効率が改善できることを示している.さらに,多重アクセス通信路と類似したデジタル指紋符号化システムに対し,連接符号化とリスト復号法を組み合わせることにより,符号長に対して多項式時間の計算量で不正者が検出できるアルゴリズムを開発し,全ての不正者が正しく検出できる符号パラメータの十分条件を示した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,ユーザ間の協調を許容するマルチユーザ通信路において,符号長の多項式オーダ時間で符号化・復号化が実現可能な符号の構成法を検討する.また,送信信号間の非同期問題に対しても,同様の目的の符号構成法の開発を行う予定である.
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