本研究では,複数のノード(送信機・受信機)から構成されるマルチユーザ通信システムにおける符号化レートの限界の解析と,その限界を達成する具体的な符号構成法を議論した.平成24年度の研究では,マルチユーザ通信路において信頼性を確保しながら低計算量で情報レートの理論限界に迫る符号構成法の開発を行った.特に,平成23年度に開発した多重アクセス通信路における符号長Nの多項式オーダ時間で符号化・復号化が実現可能な符号の構成法をもとに,送信機から伝送される送信信号間に同期が取れない問題(非同期問題)に対して,同様の符号構成法の開発を行った. 近年,単一ユーザ通信路において有限長の符号化を仮定した元で達成可能な情報レートと復号誤り率のトレードオフ関係を明らかにする研究(有限長レート解析)が注目されている.本研究では,多重アクセス通信路における符号化に対して,同様のアプローチにより,符号長が有限のときに達成できる情報レートがどのように変わるかを理論的に解析した.特に,従来よりも詳細な復号誤り確率の上界式と下界式を示した.こられは現在知られている誤り率の限界式の中で最も厳密であり,有限長符号に対する情報レートの理論限界を特徴づけた点に意義がある.これらの限界式より,複数の仮説からなる複合仮説検定問題と多重アクセス通信路における復号問題の類似性が明らかになった.これにより,よりよい復号性能を持つ復号アルゴリズムの開発に繋がると期待している. また,マルチユーザ通信システムにおける符号化方法の情報セキュリティ分野への応用を検討した.特に,多重アクセス通信路における符号化と関係が深い,情報セキュリティ分野のデジタル指紋符号化システムにおいて,不正者によって検出される確率に差がでない(公平な)攻撃を仮定し,安全性を保証した元で達成できるユーザ数レートの上限を示した.
|