研究概要 |
平成22年度は,IP放送に対するサービス体感品質(Quality of Experience : QoE)の構造分析とユーザ行動モデルの構築を行った.具体的には,従量制VOD形IP放送に着目し,そのサービスにおけるQoEを呼損率として定義した.呼損率が高ければユーザ満足度は減少する.サービスに満足できなくなったユーザは当該サービスから離脱する.呼損率とユーザの参加,ならびに離脱のモデルをエージェントシミュレータを用いて表現した.具体的には,月額料金を変化させ,ひと月の間に得られるユーザ便益(効用-料金)からユーザの参加離脱を決定する.次のステップとして,ユーザ行動からユーザ便益と事業者収入の妥結点となる料金を明らかにした.ユーザ便益が最大となる料金と,事業者収入が最大となる料金は一般には異なる,ここでは,ゲーム理論の交渉問題を用いてユーザ便益と事業者収入の妥結点となる料金を理論計算により明らかにした.本年度は,定額制IP放送に着目した検討を行った.しかしながら,IP放送にはストリーミング技術を用いたサービスも数多く存在する.ストリーミングの場合,QoEのメトリックは呼損率以外にジッタや画像の途切れなどが考えられる.次年度は,定額制以外に従量制のサービスについても検討し,QoEの構造分析を進める.その一つの方法として,本年度購入した画像表示用の移動端末を用いて,主観評価実験を行い,コンテンツやネットワークの品質とユーザ効用の関係を明らかにする予定である. 本研究の意義は,サービス品質の評価を,単なる客観評価だけでなく主観評価と合わせて行う点にある.過剰な設備投資は経営を圧迫するがユーザが満足できないサービスは成功しない.本研究はシステム側の観点とユーザ側の観点をあわせて評価し,経済分析だけでなく将来的には制御技術としての応用も視野に入れている.このような視点の研究は今後重要になると予想される.
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