研究概要 |
本研究の目的はLDPC符号の正確な誤り率を導出する為の新たな解析法を創出することにある。本年度の研究実施計画では、符号長160未満のLDPC符号に対し、訂正可能誤りの重み母関数を求める手法を提案することを掲げていた。 この問題の難しい点は計算複雑性にある。もし計算時間を無視して構わないのであれば、計算機によって全ての誤りパターンを発生させ、訂正可能な誤りを求めることで、訂正可能誤りの重み母関数を決定することができる。しかし誤りパターンは符号長に対して指数的に増大するため、現実的には不可能である。情報セキュリティにおける計算量的安全性の指標として、符号長が80の全ての誤りパターンを計算機に入力することが現実的にできないと掲げられていることからも、本問題の難しさがわかる。 一方で、LDPC符号の復号アルゴリズムを考慮すれば、理論だけで解析を完了することは殆ど望めない。そこで訂正可能誤りの誤りパターンをすべて求める高速なアルゴリズムの創出が、本研究の本質的な課題となる。 本年度の成果は、訂正可能誤りと訂正可能シンドロームとの間の一対一対応を理論的に解明することで、符号長が80を超える符号の解析を実際に行なった点が挙げられる。その際、グラフの同型構造に着目することで、訂正可能シンドロームを求める計算効率を向上した点も成果と言える。そのアイデアはBurnsideの補題と呼ばれる群論の定理の応用である。この補題は、訂正可能シンドロームに対するグラフの同型群の作用による軌道の総数を数える手法である。このアイデアを用いることで、符号長121のArray型(3,11,11)符号の訂正可能誤りを求める時間を、元来の計算量である「2の121乗」から「2の24乗」まで、原理的に減らせることを示した。
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