本年度は、かぐや衛星で観測された自然波動のスペクトルの特徴に基づいた月面における電子密度の高度分布推定法の開発に取り組んだ。対象とする電子密度分布は月近傍のプラズマ物理に関わる一方、領域パラメータに対するその依存性は未だ明らかにされていない。かぐや衛星で観測されるAKR波のスペクトルには月面反射の影響により電子密度の高度分布に依存した干渉縞が現れるため、この縞構造にconsistentな電子密度分布をモデルフィッティングにより求めることができる。この干渉縞の再現のために、月周辺空間での自然波動の挙動を計算機シミュレーションにより理論計算できるようにした。開発した推定手法を、いくつかの観測例に適用したところ、解析したすべての例において、月面付近に電子密度の濃い層は存在しないことが明らかになった。これは、長年にわたり論争になっている月電離層の有無を議論するうえで重要な結果であるといえる。 来年度は、今年度開発した推定手法を用いて、かぐや衛星で観測されたAKR波のデータを統計的に処理することにより、様々な条件下での月面上空の電子密度分布を調査して行く予定である。また、波動データから導出された衛星軌道上の電子密度の観測結果に関して、惑星間空間磁場とのかかわりを計算機シミュレーションを通して裏付けて行きたい。衛星軌道高度の電子密度は、惑星間空間磁場の向きに依存して非対称なグローバル分布を示すことが観測結果から分かっているが、その原因についてモデルを使って数値的に検討する予定である。
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