平成23年度には、月面電子密度の高度プロファイル推定法の開発を行い、これに基づく月電離層の有無の判別から定常的かつグローバルな月電離層が存在しないことを明らかにしたが、平成24年度は別の視点から同結果について検証を行った。地球の極域から放射されたオーロラキロメトリック波(AKR)は月を周回するかぐや衛星で断続的に観測されてきたが、観測された周波数-時間ダイアグラムには衛星に直接到来した波と地上で一旦反射してから到来した波の干渉に基づく縞構造がみられる。この縞の間隔に対し逆問題を解くことで、反射波の反射高度を近似的に推定することが可能となる。この原理に基づきAKRの反射高度の統計解析を行ったところ、反射高度は月面高度を中心として高度に対して対称な頻度分布になっていることが明らかになった。この結果は、解析した例すべてにおいて月面電離層が存在しなかったことを意味する。 さらに近年の研究で月電離層の形成に関わっている可能性が指摘されている月の土壌に含まれる水分について、自然波動を利用した検出法を検討した。これは前述の干渉縞の強度特性を利用することで、低周波の電波に対する月面反射率さらに誘電率を求め、乾燥大地と湿地を区別する手法である。同手法を用いることで理論上は水分検出が可能となる。以上の成果について、10月に札幌で開催された地球電磁気・地球惑星圏学会秋季大会および12月に米国サンフランシスコで開催された米国地球物理学会秋季大会において発表を行った。
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