研究概要 |
本研究では,ガラス基板に生体適合性の高い酸化亜鉛(ZnO)を母体材料とする電解質溶液ゲート電界効果トランジスター(SGFET)を作製し,血中の健康指標マーカーである免疫グロブリン(抗体)を高い感度で検出できる小型・軽量のセンサーを開発することを目的とする. まず,センサーの基盤となるSGFETの構造およびスパッタ成膜条件の最適化と素子の微細化を行い,ドレイン電流と相互コンダクタンスの増大を図る.ゲート絶縁膜には溶液耐性が高く誘電率の高い五酸化タンタルを,電極保護膜には高い耐水性と絶縁性を兼ね備えたSU-8レジストを用いる.試作した素子に対して様々な環境下で動作特性を調べ,実用レベルの動作特性を実現する.次に,溶液ゲート表面にタンパク質固定化の足場となるアミノシラン分子を修飾し,続けて抗体と特異的に結合する核酸分子アプタマーを架橋法で固定化することで,免疫センサー素子を開発する.本年度までに実施して得た研究成果は以下の通りである. 1.高周波マグネトロンスパッタ装置を用いてガラス基板上に酸化マグネシウム亜鉛(ZnMgO)薄膜(バッファ層),InドープZnO薄膜(チャネル層),酸化タンタル薄膜(ゲート絶縁層),を順に積層してSGFET構造を成膜. 2.デバイス加工プロセスを見直すことで,ドレインとソース電極の接触抵抗を低減し,さらにSU-8レジストを用いた素子の微細化によりドレイン電流と相互コンダクタンスを従来の20倍以上に改善 3.溶液ゲート表面ヘイオン感応基を持つアミノシラン分子を固定化し,pHセンサー素子を試作 4.低バイアス条件でセンサー素子を動作させることで,電流ドリフトを従来の1/31以下に低減
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際にSGFET素子を試作したところ,繰り返し測定において再現性が得られなかったため,その原因を調べるために時間を費やした.結局,ドレイン電流のゲート電圧依存性に大きなヒステリシスが含まれていることが判明し,低いバイアス点で素子を動作させることで,繰り返し測定において再現性が得られるようになった.
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今後の研究の推進方策 |
SGFET素子のゲート表面にイオン感応基をもつアミノシラン分子を固定化した段階で,市販のシリコンpHセンサーと同等もしくはそれ以上の検出感度と測定精度を得たい.そのためには,低いバイアス条件でも大きなドレイン電流と相互コンダクタンスを有する素子の開発が必要である.最終的には,アミノシラン分子のアミノ基を足場にして架橋法で核酸分子アプタマーを固定化する技術を開発し,試作した免疫センサー素子に対して溶液中の免疫グロブリン抗体の検出特性を調べる予定である.
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