研究概要 |
生物が示すしなやかで巧みなロコモーションは,身体に持つ膨大な自由度の間に生み出される動きの位相的関係(phasicな運動パターン)と筋力の空間的関係(tonicな運動パターン)の双方が整合的に噛み合って実現されている.自律分散制御は,このような優れた能力の発現機序を理解する際に鍵となる概念である.これは,単純な知覚・判断・行動出力の機能を持つ要素(自律個)を多数集めて相互作用させることで,大域的に新規かつ有用な機能を創発させる制御方式である.しかしながら現段階では,生物が行う自律分散制御の詳細は明らかではなく,工学的な設計論としても確立していない.本研究では,比較的単純な構造であるにも関わらず巧みな振舞いを示すヘビのロコモーションに着目し,その振舞いの数理モデル化および実機開発を通して,phasicな運動パターンとtonicな運動パターンを有機的に連関させる自律分散制御様式を明らかにすることを目的とした. 平成22年度は数理モデルの構築およびシミュレーションを行った.モデルでは,制御系を構成する自律個を振動子の位相と筋緊張度の2自由度で表し,機構系と環境の間で生じた齟齬を位相・筋緊張の双方にフィードバックすることで,phasicな運動パターンとtonicな運動パターンの連関を記述した.そして構築したモデルをもとにシミュレーションを行い,位相制御と筋緊張制御が有機的に連関することで,地面の摩擦環境の変動や傾斜角の変動に対して適応的にロコモーションを生成することを確認した.さらに,(1)位相制御だけを行った場合,(2)筋緊張制御だけを行った場合,(3)位相制御と筋緊張制御の双方を行った場合,についてロコモーション速度やエネルギー効率の定量的な比較を行い,位相制御がエネルギー消費の軽減に,筋緊張制御がタフな環境に対する力強いロコモーションの生成に,それぞれ寄与していることを明らかにした.
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