研究概要 |
生物が示すしなやかで巧みなロコモーションは,身体に持つ膨大な自由度の間に生み出される動きの位相的関係(phasicな運動パターン)と筋力の空間的関係(tonicな運動パターン)の双方が整合的に噛み合って実現されている.自律分散制御は,このような優れた能力の発現機序を理解する際に鍵となる概念である.これは,単純な知覚・判断・行動出力の機能を持つ要素(自律個)を多数集めて相互作用させることで,大域的に新規かつ有用な機能を創発させる制御方式である.しかしながら現段階では,生物が行う自律分散制御の詳細は明らかではなく,工学的な設計論としても確立していない.本研究では,比較的単純な構造であるにも関わらず巧みな振舞いを示すヘビのロコモーションに着目し,その振舞いの数理モデル化および実機開発を通して,phasicな運動パターンとtonicな運動パターンを有機的に連関させる自律分散制御様式を明らかにすることを目的とした. 前年度において,位相制御と筋緊張制御が有機的に連関した自律分散制御則を構築し,その妥当性をシミュレーションにより検証した.平成23年度は,前年度の結果をもとにロボット実機の開発を行った.本研究の要となる位相制御と筋緊張制御を実現するため,ヘビ型ロボソトの各関節部には2つのモータを実装し,それらと隣接する体節をシリコンゴムでつないだ.ゴムの弾性ゆえに目標関節角と実際の関節角の間に齟齬が生じる.この齟齬をもとに振動子の位相を修正するとともに(位相制御),齟齬が生じると2つのモータを逆向きに回転させることで関節剛性を高めるフィードバック(筋緊張制御)を導入し,この両者の連関によって高摩擦面や斜面などにおいて実時間環境適応的なロコモーションを示すことを,ロボット実機を用いて実証した. さらに,モデルを発展し,ヘビが足場を活用して推進するための自律分散制御則を提案し,その妥当性をシミュレーションにより確かめた.
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