セメント硬化体の測定には広範に水銀圧入法(Mercury Intrusion Porosimetry,以下MIP)が用いられている。しかし,MIPは測定の際に高圧力を加えるため,劣化したコンクリート等の脆弱な硬化体では微細組織が崩壊し,細孔径分布を正しく測定できていないことが指摘されている。また,水銀は毒劇物であるため,測定装置を設置ために専用の独立した分析室を準備する必要があり,また実験に利用し水銀の付着した試料・ろ紙・試薬等の廃棄および器具を維持管理するに際しても特別な処理が必要されるなど,その取扱いにおいては細心の注意が要求される。今後,このような有害物質を利用した分析手法が恒久的に利用できる可能性は作業環境の安全確保および自然環境への負荷の観点から見ても低いことが予想され,代替の方法が必要である。 本年度は前年度までに確立した手法を用いてセメント系材料を用いて測定を行い,高精度走査熱量計(DSC)による空隙径分布の測定結果と,硬化体の相組成モデルや組織形成モデルから推定される空隙構造との関連を整理し,高精度走査熱量計(DSC)による空隙径分布の測定手法(サーモポロメトリー)の妥当性を検討した。 その結果,異なる細孔を有する多孔質シリカを用いた検討により,15nm未満の細孔半径の測定には溶媒として水が,それ以上の細孔半径にはシクロヘキサンが適していることを見出し,セメント硬化体の空隙構造を測定する方法として双方の測定結果を組み合わせる方法によりセメント硬化体の空隙の解析が可能であることを明らかとした。以上の結果から水銀圧入法に代わる空隙構造の測定方法として,サーモポロメトリーが有用であることを見出した。また,硫酸の侵食により脆弱化した硬化体の細孔の測定例を示した。
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