研究概要 |
初年度は,健全時の基準データを必要としないBaseline-less型異常診断法の実現可能性を調査することを目的として,全体構造から異常性を有する箇所を検出するための定量評価手法として,アトラクタの交差予測誤差,リカレンスプロット,局所領域のばらつき等を評価し,軸対称構造物への異常診断を実施した.数値計算例を通じて,異常性を有する要素を適切に把握することに成功し,提案手法の有用性が確認された.特に,同層に位置する要素の構造諸元がすべて同一という理想的な軸対称構造物では,損傷を仮定した要素を上記のアトラクタの評価により,全体構造から何らかの異常性を有する箇所として特定可能であることが分かった.このことは診断対象の構造形状によっては,健全時の状態量を必要とせず,まさにカオス信号を入力するのみでBaseline-less型異常診断が可能であることを示している.ただし,この場合,損傷前後での特徴量の比較を行わないので,このままでは健全性評価は行えない.今後,入力カオス信号と応答信号の波形構造が概ね一致する性質を積極的に利用し,損傷に起因して損失する情報量を調査し,損傷レベルの推定も含む健全性評価が可能な方法の構築を目指す予定である.また,数値実験を通じてBaseline-less型異常診断が適用可能な診断対象の構造形状を明らかにするとともに,起振機を用いた模型実験を行い,提案手法の有用性を明らかにすることが今後の重要な課題である.
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