研究概要 |
1.旧余部鉄橋鋼材の材料特性試験 平成22年度に,旧余部橋梁の主桁鋼材を入手できた.この主桁は平成22年度までに本研究で供試体として使ってきた鋼材とは全く異なる環境条件で供用されていたため,腐食損傷状況を詳細に調査したとともに,鋼材の素性を明らかにするため,材料特性試験,化学成分分析等を実施した.また,このような老朽化橋梁の維持管理で今後問題となる塗膜除去法についても検討した. (1)海側外桁の上フランジ下面など,雨水に当たり難い部分で断面欠損を伴う重度な腐食が確認された. (2)(1)の他,枕木敷設やカバープレート境界などにおいて隙間腐食による断面欠損が顕著である. (3)本桁は16層以上の厚い塗膜を有しており,この種の塗膜除去には,超高圧水吹付工法が有効である. (4)フランジ鋼材は,降伏強度,伸び,炭素量などの点でウェブや対傾構部材に比べて劣っている. (5)引張試験,化学成分,金属組織観察結果より,本鋼材は材質的にかなり不均質である可能性が高い. 2.幅広供試体による腐食鋼板の降伏・引張強度評価法の提案 上記の鋼材および船越運河橋(愛媛県)から採取した腐食鋼材を加工して幅広供試体を24体作成した.腐食表面形状は,新たな試みとして2次元レーザー変位センサを用いた走査法によって測定した.その後,愛媛大学所有の3000kN万能試験機を用いて静的引張試験を実施し,実際の降伏強度および引張強度を明らかにしたとともに,これまでに我々が提案・改善してきた残存強度評価法を適用して,その一般性や汎用性を検証した,現在までのところ,実験値と予測値(評価値)は概ね一致しているものの,極めて局所的かつ重度に腐食している場合には,実際よりも危険側の判断を与える場合があるので,できるだけ安全側かつ精度良く評価できるよう,改善策を検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腐食状況や材料特性が全く異なる腐食鋼材が入手できたので,これまでに提案してきた引張強度評価法の一般性や汎用性を検証する機会を得た.また,研究の過程で腐食鋼板の実用的板厚測定法に関する貴重な知見も得た.この点では当初の計画以上に進展していると言えるが,その反面,余力があれば当て板補強を施工した場合の性能回復効果を検証するための引張試験を行いたかったが,強度評価法に注力したため実施できなかった.以上の理由から,区分としては「(2)おおむね順調に進展している。」が妥当と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り板幅150mm程度のサイズの重度腐食鋼板から供試体を10体程度作成し,これを補強して引張試験を実施する予定である.供試体には,旧余部鉄橋主桁鋼材を用いる予定であるが重度の腐食が認められる部位がカバープレートを装着したフランジ部と,かなり限定されている上,多数のリベット孔や断面欠損があるために供試体寸法を縮小する場合がある.万が一,供試体として有効に使える部分が小さく,ボルト打ちなどの供試体としての加工が困難と判断された場合には,本研究課題と今後密接に関連してくるであろう重度腐食鋼板の圧縮強度評価に載荷実験の内容を変更し,供試体鋼材を有効活用したい.その場合には,ピン支持用の載荷冶具を製作する必要があるが,それ以外の必要物品(消耗品含む)は引張試験の場合と変わらない.実験終了後には,平成22~23年度に実施した引張試験を踏まえて改良した強度評価法による評価結果と実験結果を比較し,腐食の程度に応じた性能回復効果を検証する.また,座屈試験を行った場合には,過去に申請者らが行った座屈試験(板幅30mmの短冊状の腐食鋼板)の結果と比較し,重度腐食鋼板の圧縮強度評価法に関する考察を行う.
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