研究概要 |
本研究の目的は,社会的ネットワーク上における人々の間の協調関係の構築について,そのメカニズムを理論的に解明することである.今年度は,昨年度までの枠組みから以下のような拡張を図った. 1.個人がそれぞれ空間上の異なる地点に立地しているとし,立地点間を結ぶcongestibleな交通ネットワークを考慮した(空間,交通ネットワークの導入). 2.個人は,社会的ネットワーク上でつながりを持つ相手と協働活動(Face to Face communicationとも解釈できる)を行うために互いを訪問し合い,その水準(頻度)を連続的に決定するものとする.その上,個人が他者との交流を通じて得る効用には,戦略的補完性(活発に活動を行う相手との協働活動はより高い効用をもたらす性質)と多様性選好(多様な相手との協働活動を好む性質)が作用するものとする. 以上の枠組みの下,各個人の活動に関する効用最大化行動の結果実現するナッシュ均衡解を任意の社会的ネットワーク及び交通ネットワークにおいて解析的に導出できることを明らかにした.その上,数値計算事例を通じて,以下の成果を得た. 1.主体間の協調関係は,社会的ネットワークの構造と交通ネットワークによる空間的条件の両方の影響を受けて決定される.各主体の共同活動の水準は,社会的なポジションと空間的立地条件を所与としてNash均衡解として求まる. 2.交通コスト,交流相手に関する多様性選好,および活動に対する戦略的相補性を考慮することで,各主体の協働活動の水準,効用の変化および大小関係のほとんどを説明できる. 3.交通コストの低下は,協調関係を促進する. なお,以上の成果については,既に論文(査読無し)として国内学会に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していた分析枠組みでは,数値シミュレーションに頼るところが大きく,モデルの一般性や結果の頑健性が高いとは言い難かった.また,モデル設定が複雑であったため,発展モデルへの拡張も困難となることが予想された.そこで,研究の目的を達成すべく,より一般性が高く,その上tractableなモデルへの変更を図った(詳細は,研究蓄積の概要を参照).その分,当初予定していた計画に遅れが発生した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,当初の研究計画を変更し,今年度に構築した新しい枠組みを用いて以下に示す分析を進めていく. 1.社会的ネットワーク及び交通ネットワークの位相幾何学的構造と協働活動の関係に関する詳細な分析 2.均衡解と社会的最適解の関係の解明と政策分析(当初の研究計画[H24年度]の課題に若干の修正を加える) 3.主体の立地選択を内生化した枠組みへの拡張(新たに設定する課題) 以上の変更は,研究目的の遂行を第一に考えた結果である.それに伴い,当初研究計画[H23年度]の課題であった社会的ネットワークの成長の内生化については分析を行わないこととする.
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