本研究の目的は,地域間高規格道路整備の便益計測に有効とされている空間的応用一般均衡(SCGE)モデルにおいて,交通サービス生産と交通行動に関するモデルを精緻化することにより,SCGEモデルによる便益評価の精度向上を図ることである. これまでに,1.Barro型CES関数を用いたSCGEモデルの構築,2.簡単な数値計算の実行,3.便益帰着分析,政府・投資部門の便益評価の検討を行った.1ではBarro型CES関数を用いて,交通サービス生産及び交通行動モデルを明示的に考慮したSCGEモデルの構築を行った.さらに,2では新東名高速道路を対象とした実証的な数値計算の試算を行った.そこでは,平成24年4月14日に開通する御殿場-三ヶ日間および全線開通した際の便益評価を行った.3においては,2の結果を踏まえて,便益がどの地域のどの主体に帰着するのかを明らかとするための便益帰着分析を実施し,それらを便益帰着構成表としてとりまとめた. 本年度は,1.等価的偏差EVにて計測される便益と実質国内総生産(GDP)変化との関係整理,2.SCGEモデルの交通整備評価への適用を行った.1.ではEVを式展開することにより,実質GDP変化として計測できることを示し,便益がどの産業の付加価値の増加に起因するものであるのかを明らかにした.これにより,交通整備効果の産業にもたらす影響を詳細に捉えることが可能となった.2.では,リニア中央新幹線整備評価,東日本大震災の経済損失評価,笹子トンネル事故に伴う中央自動車道途絶の経済損失評価にSCGEモデルを適用し,実証的評価を行った.これらを通じて,本SCGEモデルが実際の交通整備あるいは交通途絶の影響評価にも十分に適用可能であることを示すことができた.
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