研究概要 |
本研究では,レプトスピラ症と住血吸虫症を代表として,水中の病原微生物による皮膚を介した感染症のリスク評価モデルを開発することを第一の目的とする。さらに,開発した評価モデルを用いて,水域の汚染対策や水利用に関わる衛生教育などのシナリオのもとでリスク低減効果を算定し,効果的なリスク管理手法を提案することを最終の目的とする。 本年度の研究実施内容は以下の通りである。 (1)用量-反応モデルの開発:皮膚から人間の体内に侵入した病原微生物の個数(用量)と,そのときに感染が成立する確率,あるいは具体的な症状を呈する確率(反応)の関係を記述する数学式である用量-反応モデルの開発のために,過去に発表された論文から,レプトスピラおよびメコン住血吸虫の動物に対する感染実験のデータを収集した。収集したデータをもとに,本年度はレプトスピラ症に関する用量-反応モデルを開発した。その結果,レプトスピラの感染力が菌の血清型によって大きく変化することが分かり,リスク評価には血清型を考慮する必要があることが示唆された。 (2)現地における疾病の発生状況に関する調査:メコン住血吸虫症の流行地であるラオスとカンボジアの国境付近における同疾病の発生状況について,集落ごとの感染率(虫卵保有率)の詳細なデータ(1990年代前半と2000年代前半の2種類)を入手した。レプトスピラ症の発生状況については,同疾病が流行しているタイ東北部における県別,月別の感染者数のデータを入手し,(1)で開発した用量-反応モデルを用いて,当地の農業従事者のレプトスピラ曝露量を推定した。 (3)現地における水利用と水環境汚染に関する調査:タイの農村域における水環境の糞便汚染の状況や,下水処理水の水田での利用状況について調査を行った。
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