研究概要 |
本研究の目的は、気象情報をシームレスに組み込んだ次世代のLES(Large-Eddy Simulation)モデル(次世代流体工学モデル)の開発である。そのためには、LESモデルと気象シミュレーションモデルの結合が必要となる。その結合において大きな課題となるのが、LESモデル側の境界条件として必要となる微細な乱流変動成分の生成である。 平成23年度は、その乱流変動成分を人工的に生成する手法の開発に取り組んだ。1つは、鉛直多層分割+各層における等方性乱流の仮定による人工的な乱流変動成分の生成手法の開発である。等方性乱流は、Leeら(Phys. Fluids, 1992)が提案している波数空間の3次元エネルギ}スペクトル+フーリエ逆変換に基づく手法により人工的に生成した。多層分割するために、等方性乱流を生成する際に各層で乱流強度を変化させた。この手法により人工的に生成した乱流変動成分を用いて、大気境界層流(平板境界層流)の解析を行った。解析領域流入直後では鉛直多層分割の影響で階段状の乱流統計量(乱流エネルギーやせん断応力)の分布が続いたものの、流下するにつれて目標に近い乱流統計量を再現することができた。本手法をより実用的に用いるためには、階段状の非物理的な分布から物理的な分布になるまでの助走距離を可能な限り短くする必要があり、これは今後の課題である。 もう1つは、Reynolds応力のコレスキー分解(例えば、Lundら : J. Comp. Phys., 1998)+一様乱数に基づいて乱流変動成分を人工的に生成する手法の開発に取り組んだ。この手法の場合、境界条件としての乱流変動成分は目標値を正しく再現できるが、解析領域流入直後に大きな乱れの減衰が生じ、流下しても正常な乱れの回復は見られなかった。コレスキー分解と組み合わせる変動量を無相関の一様乱数ではなく、時間相関あるいは空間相関を持つものとする必要性が示唆された。
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