研究概要 |
重度の身体障害をもつ障害児が「能動的な生活」を送るための施設療養空間の建築計画要件を探ることを目的とし、能動的活動性を向上させる内的要因である覚醒レベルの向上に寄与する「座のとり方」に対する物理的環境要素のあり方を明らかにする。 平成22年度は本研究1年目として、施設療養空間内での姿勢に寄与する建築要素の調査(【調査1】物理的要素の書き取り調査)をおこなった。調査対象施設は、肢体不自由児施設から重症心身障害児施設へと建替えのおこなわれたR施設(群馬県)と、筆者が建築の基本計画策定に参画した肢体不自由児施設Kセンター(熊本県)である。R園は建替え前の1空間(Rp)および建替え後の2空間(Ra1,Ra2)、Kセンターは建替え後の2空間(KaN,KaK)の5つの空間について調査をおこなった。また、RpとKaNおよびKaKについては、入所児童の座のとり方調査(【調査2】重症児の座のとり方調査)を実施した。 これらの調査から、以下のことが判った。 (1)施設空間の床素材は主に木質,カーペット,ビニル系シートであり、しつらえによる作りこみも見られた。 KaNおよびKaKのカーペット空間は車イス等の車輪付き移動補助具の侵入を制限しているが、Rpではカーペット空間でも車輪付き移動補助具を使用しているなど、床の使われ方と床材とに決定的関係性はみられない。一方で、車輪付き移動補助具の侵入を制限する空間(=床座空間)に着目すると、意図的に広く計画したKaN(44.5%)以外は全床面積の1.7%(Rp),3.4%(Ra1),3.7%(Ra2)、15.8%(KaK)と非常に小さい。 (2)一方で、【調査2】より入所児童の居場所について分析すると、床座空間への滞在は「余暇的な活動」に限られ、食事等への利用は見られないことがわかった。その滞在率はKaNで30.8%と高い他、KaKでも18.7%,Rpでも8.8%と床面積比より大きい。また、姿勢では臥位がもっとも多く座位移動も見られることがわかった。 これらの結果から、床座空間は施設空間において非常に小さく設定されているが、重度障害児の居場所としては余暇的に使われ、床面積比よりも大きい滞在率が見られることがわかった。さらに多くの空間に置いて上記の調査をおこない、関係性について定量的な考察を目指す。
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