本年度は、旧軍港市の代表例である横須賀市を対象として、戦後の都市づくりにおいて、旧軍用地が如何なる役割を果たしたのか、旧軍用地転用の特質とともに検討し、その成果の一部については、日本都市計画学会にて研究発表(査読論文)をおこなった。終戦直後、横須賀市と国(大蔵省)のそれぞれによって、具体的な旧軍用財産の転用計画が検討されていた。いずれも「工場・倉庫」と「学校」への転用案が主となっていたが、個々の旧軍用財産をみると、一方にのみ記載されている転用案が多く、全体の整合は必ずしも図られていなかった。同一の旧軍用財産に全く異なる転用案が示されている2件については、大蔵省の計画でいずれも市の要望が聞き入れらておらず、GHQへの配慮や国家的見地が背景にあったことが示唆される。また、1950年の転換事業計画においては、「学校」や「公園」への転用に加え、宅地造成事業による住宅地への転用、平和産業転換誘致事業による産業用地への転用といった大規模土地利用転換が特徴的である。そして転換事業計画での転用案は、1975年頃までに殆どが譲与(無償譲渡)処分となり実現されて、戦後横須賀の市街地形成に大きな影響を与えたことが明らかになった。また、本年度の調査の過程で、旧軍港市国有財産処理審議会(1950~1976年度)の会議資料や議事録が見つかり、転用にあたってどういった議論がなされたのかという点も含め、旧軍用地の転用過程が詳細に明らかになりつつある。
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