和歌山県白浜町にある中村は、富田川河口の西側に位置し、地引網漁での沿岸の漁獲と農業による富田川河口に広がる田園地帯を持ち、半農半漁で生活を営んできた。集落内には長屋門を持つ民家もあり、大網船納屋をはじめ、伝統的な漁業に関する施設がある。また、中村は近世菱垣廻船発祥の地といわれ、近世初期の江戸通いの大型廻船を供給していたことが白浜町誌にも記されており、漁労のみでなく、海運により発展したことが考えられる。中村では付属屋を持つ民家が7割以上を占め、付属屋の配置において二方が建物に囲まれそれ以外のところがニワとなるL字型、三方が建物に囲まれた間がニワとなるコの字型に配置されているところは約5割あり、いずれも通りと接するところに「カド」とよばれるニワが設けられている。近年、中村においては、海沿いにある松林の植林・清掃やかつて行われたお祭りや地引網漁の継承をはじめ、集落における維持管理が行われている。 結果から、中村の景観は、歴史的には漁業や海とのつながりが強いことが考えられるが、生活・生業面からみると農業とのつながりが強いことがわかった。付属屋の配置により「カド」と呼ばれるニワのある民家は、「通り」と「母屋」をつなぎ、季節とともに変わる農の風景や祭りの風景が見られ、「通り」に近い半公共的な空間の役割を持っている。一方で、空き地、空き家が複数の箇所に集中しており、ともに集落の東側に多く、空き地は複数が隣接して集中する箇所がみられる。また、空き家についても、空き家や空き地に隣接するところが多い。今後は、集落景観の維持管理に関する様々な取り組みとともに、空き地・空き家についても取り組んでいく必要があると考える。
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