過疎地域においては、限界集落や消滅集落という言葉が一般に普及するほど、深刻な状況に立たされている。国土保全を考える上で集落の持続は重要な課題であり、かつ対応方策を考える事が急務となっている。筆者はこれまでに人口増加を続けていた坊勢島に着目し新宅分けという慣行等について研究注1)をしてきており、継続的に地域社会を維持・継承していくためには、イエを継承していく知恵や工夫としての慣行が重要であると考えている。特に民俗学における隠居研究の第一人者である竹田が「隠居が家督・財産の生前譲渡によって「家」の若がえりを期待」注2)していると指摘しているように、隠居慣行は居住継承を促す仕掛けであり、この居住継承により地域社会が維持・継承しうると考えている。 しかし、船越らが指摘するように隠居慣行は「単に継承されているわけではなく、社会的・経済的条件の変化、生産・生活の合理化や近代化に伴い変質を余儀なくされ大きく変容」注3)している。よって、今後も地域社会を維持・継承をしてくためには、これまでの隠居慣行を現代的に捉え直していく必要がある。 三重県志摩市阿児町国府集落の隠居慣行は竹田が指摘するように「全国的にもっとも著名」な隠居慣行の一つである。これは我妻による「嫁の天国」注5)の出版を契機にマスメディアに取り上げられ全国的に脚光を浴びたからであると言われている。そのため、既往研究が数多くなされており隠居慣行の変容を捉え現代社会への適応の状態を把握する上で適切であると考え、研究対象地として選定した。 本稿では、国府集落における隠居慣行の変容の実態を把握するとともに、居住継承や不動産の継承の見通しを把握し、それらの関係を明らかにすることを目的とする。それを踏まえて集落の持続にする考察をおこなった。
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