我が国の伝統的な家屋の大多数は個人によって維持されている。本研究は中越地方の山間集落を対象に,家屋の形状変化とその要因,危険部位の抽出,家屋維持のための課題について調査研究を行った。 母屋形状の変化では,減築も見られ,要因は雪下ろしの労の軽減,冬季の無人化による雪による圧壊予防であった。近年の豪雪で蔵等では有人でも圧壊している例がある。2 階の増設例は,通し柱はなく地震時に層間で屈曲の被害が出ている。ライフステージの変化に伴う増築や改築は,中門部分で受容している例が多く,土間の板張化,浴室の増築,トイレの母屋化が多数を占める。次いで子供部屋の2階北側への増築が相当数あり,これは,本来1階天井の横架材に部屋を載せ,さらに空間確保のため屋根部材を切断していることから構造的な危険度がかなり高い。 具体的に課題となる部位を抽出するため,既往研究を収集し整理した。結果,構造的性能を決定づけるのは仕口部にあり,仕口形式,めり込み量,繊維方向,仕口・横架材・柱寸法の要素があげられる。耐震判断では建設当初の寸法も重要である一方,経年や災害によるめり込み量の減少や仕口部の精度の低下も考慮しなければならない。 また無人化による家屋の荒廃が顕著で約4割が空き家である。所有者の家屋の活用志向を見ると,家財置き場や耕作時の休憩利用のため所有し続けたい「非流動志向」が6名,個人や集落等に委託・売却したい「流動志向」2名,解体したい「撤去志向」3名,志向なし5名で,流動・撤去志向が少なく集落側から見ると非活性化の状況を生んでいる。流動・撤去志向の所有者は集落と縁がほぼ切れている状態ですでに倒壊している家屋もある。 ハードソフト両面での維持の仕組みが求められ,将来的には老朽家屋の診断指針や,無人家屋さらに高齢者の住まいの維持方策について個人・地域を超えて考える必要性が指摘できる。
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