本研究は、研究代表者による建物の平均寿命に関する既存研究の成果を基に日本各地の建物の平均寿命の推計及び将来予測を行うことで、これまで不透明だった建設ストックの実態を明らかにし、今後の建設産業の方向性を検討するために不可欠な基礎資料を提示することを目的としている。本年度は、各種統計資料から得られた約2000項目の経済及び立地に関する指標を基に、重回帰分析により各都市の平均寿命に与える影響が強いと考えられる6つの項目を選定し、その項目を説明変数に用いた回帰式の当てはまりと一般性について検討を行った。その結果、都市の平均寿命は地域性よりも経済特性の影響が強いと考えられること、そして経済的な余裕が平均寿命の延長と短縮の双方に影響を与えている可能性が高いことから単純に経済状況から平均寿命を求めることは注意が必要であることが明らかになった。また求められた回帰式の説明変数の対象が限定的で一般的な指標とは考えられないため、統計資料のデータを加工し分析を行う必要があることが判明した。そこで次年度は以下の項目について分析を行う。1.統計データの時期に合わせ平均寿命の時期を調整、2.統計データの調整(一部データを実数から割合に変換)、3.複数の回帰結果の変数を用いて1つの回帰式に統合4.変数の係数を調整(2005年と1997年で同一式を構築)5.大阪3地域のデータを用いて4.の回帰式の検証6.抽出した変数の地域性等を検証。これらの研究成果は、これまで一部の研究者しか算出できなかった建物の平均寿命を容易にかつ地域・都市別に算出することが可能となるため、今後の建物ストックの動向を的確に把握し建設産業の戦略的な対応・対策を考察する上で重要なツールとなるだろう。
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