近年、日本では少子高齢化が加速的に進み、今後も経済成長が継続する見込みは少ない。そのため建設産業は、今日までのような新築中心のスクラップ&ビルドから、欧米諸国のような既存建物の維持・再生へ方向転換を追られている。そこで本研究では、申請者がこれまでに行ってきた木造専用住宅の平均寿命の動向に関する研究を引き継ぎ、日本各地の建物の平均寿命が簡易に予測できる推計式を構築することで、これまで不透明だった建設ストックの実態を明らかにするとともに、建物の寿命に影響を与える要因を解明し今後の建設産業の方向性を示唆することを目的としている。 本研究では、一般に入社可能な統計資料を用いて住宅平均寿命を推計するために、国勢調査及び住宅・土地統計調査を用いた。対象都市は、既存の研究で対象になった38都市のうち、1997年から2005年の増減率から大津市と松江市を除外した36都市で分析を行った。 整理した統計データを独立変数平均寿命を従属変数とし、ステップワイズ法を用いた重回帰分析を行うことで住宅寿命に強い影響を与える要因を検討した。その結果、空き家総数に占める賃貸用住宅の割合、一般世帯総数に占める非農林漁業就業者世帯数の割合、持ち家総数に占める増改築・改修工事等をした持ち家数の割合という3項目が選定された。なお、調整済みR2乗値が0.569と、これら3項目による回帰式の精度は高いと考えられる。またこれらの3項目と地域性や社会的要因の関係を明らかにするため因子分析を行ったところ、都市の規模と歴史的な街並という2つのキーワードが住宅の寿命に影響を与えている可能性が高いことが明らかになった。
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