本年度は、前年度に引き続き、欧米における日本趣味の受容について調査をおこなった。ボストンやセイラムを中心とする米国東海岸における日本趣味は、建築家によってかなり早い段階から文化摂取されるとともに、新鮮なデザイン・ソースとして受け止められた。 20世紀初頭にはいると、西海岸においても、グリーン&グリーン、フランク・ロイド・ライト、ルドルフ・シンドラーらの手がけた住宅に日本建築の意匠が少なからず認められる。グリーン&グリーン設計のギャンブル邸は、俗にバンガロースタイルと称されるアメリカ住宅の典型例であるが、玄関、内部意匠、ベランダにおいて、日本建築を思わせる細部が散見される。ただし、建築家自身が日本へ出向いたことはなく、日本建築について語っているわけでもない。したがって、こうした建築作品にどの程度確かな日本趣味を認めうるのかはさらなる議論を要する。 現在、文献調査を進めている段階であるが、グリーン&グリーンの建築に日本趣味を認めたのは、同時代のフランスのジャーナリズムが最初である可能性が高い。まさにヨーロッパ全体に広がるジャポニスムの影響下に米国の建築家をも捉えた格好である。こうした出版物がやがて日本に入り、米国にも入ってゆく。それは史的評価の手がかりとなるだけでなく、次世代の建築家の制作にも少なからず影響を与えることとなる。
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