平成24年度は、主に(1)アメリカ戦後都市史・都市計画史研究のレビューと比較研究の展望、(2)日本における戦後の都市再開発に関する事例研究、(3)日本における土地権利関係に関する事例研究という三つの作業を行った。 (1)ニューヨークにおいて、現地調査と資料収集を行い、日本ではまだ蓄積の少ない戦後都市史・都市計画史について、アメリカにおける研究レビューを行った。近年、都市計画史分野で当該期の都市再開発とそれを担った人々の再評価が近年進みつつあること、都市史分野でそれまでの郊外やゲットーに関する研究に対し、ダウンタウンそれ自体の研究が進展しつつあること、そこでは日本の都市史研究で培われてきた分節的な都市把握に基づく研究の余地があることを展望した。 (2)雑居ビル、戦災復興期のマーケット、地方都市の防火建築帯・都市不燃化運動(北関東の軽石ブロック造建築、稚内市営煉瓦工場を通じた煉瓦造建築等)などの事例研究を行った。とくに地方都市のあまり知られていなかった事例を通じて、均質化が叫ばれがちな当該期の都市・建築の多様性を指摘するとともに、その特質として①工業化・制度化の「前夜」、②計画的整備というより土地権利関係を初めとする諸制約により結果的に実現、という二点の見通しを仮説的に示した。 (3)恵比寿駅付近の戦前から戦災復興期にかけての土地権利関係の変遷を明らかにした。(1)、(2)の研究を進めるなかで、背景としての土地観念の変遷を時代をさかのぼって解明する必要を感じ、研究に着手したものである。 以上を通じて、日米の戦後の都市史、都市計画史の再評価と比較分析のための展望を描いた。また、得られた展望にもとづいて、ニューヨーク7番街の問屋街において1920~50年代にかけて形成された共同ビル建設を対象に、日米の共同ビル建設過程を通じた土地観念の比較研究に着手している。
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