本研究は、中国の伝統的都市空間が中華民国期において如何なる過程と内容で近代的再編をみたのかについて解明することを目的としている。平成24年度は、前年度までの結果から(1)蘇州(2)上海(3)南京の3都市について集中的に研究分析を行うことを念頭に置き、これまで実施してきた遺構調査と史料調査の補足調査を行い、各検討項目について分析と考察を進めてきた。 (1)蘇州については、前年度までの成果により近代的再編に関する解明の目処がついたため、今年度は伝統的都市空間がどのような空間であったのかを改めて考察し、「蘇州洞庭東山にみる清代における土地建物の売買契約」を日本建築学会にて発表した。本稿は蘇州郊外の集落を対象とするものであるが、同種の史料を用いて蘇州城内についても解読と分析を進めており成果をまとめつつある。 (2)上海については、前年度に実施した上海旧城内の全範囲における街区および近代建築の残存状況の調査結果をまとめ、「Historical Heritage and Sustainable Habitat in Walled City of Shanghai」を上海の同済大学にて発表することができた。発表後は、史料調査により収集が完了した上海市工務局の史料および当時発行されていた新聞『申報』の解読を進めており、現地調査結果と相互に分析した結果を発表する予定である。 (3)南京については、前年度に台湾の国史館で収集した南京首都計画に関する史料をもとに、中華民国期の行政施設を中心に現地調査を行った。 以上のように、本研究の3年間で予定していた遺構調査と史料調査については実施計画を達成することができた。史料を豊富に収集することができたため引き続き解読と分析を行い、現地調査で得られた結果とともに研究成果をまとめ、順次学術発表を行っていくものとする。
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