本研究は東アジアにおける歴史的な建造物の保存修復のあり方を再評価する目的で行っている。具体的には、韓国を研究対象として、20世紀前半に日本からもたらされた近代的な修理工事がその後の韓国の修理技術者の系譜と技法の伝承に与えた影響について解明することである。 本年度は研究開始年度であったため、研究の基礎データとなる情報の収集及び整備を試みた。まず、戦前期に行われた韓国の修理工事関連記録のうち、未公開のものの整理及び翻刻作業を行った。これは戦前期の日本人修理技術者の海外での活動及び修理に関する考え方などを把握するとともに、当時の日本国内の状況との比較をする上で非常に有益な作業と考える。その成果の一部として、「宝物建造物修徳寺大雄殿修理計画書」及び「修理計画図」(両方とも韓国の修徳寺槿域聖寶館所蔵の『林泉資料』に所収)を紹介するため、「1930年代修徳寺大雄殿の修理計画について」と題して、2011年度の日本建築学会大会において口頭発表する予定である。 次いで、戦前期の日本国内における韓国の歴史的建造物やその修理に関する捉え方を把握することに注力した。その手法として、当時刊行された単行本や雑誌などの出版物を中心に調査し、戦前の日本における韓国の修理技術者のリスト作成及び修理現場に関わる情報の抽出、修理技術者のネットワークの把握を試みた。本年度は各々の修理技術者の経歴や活動を探ることまでは行えなかったが、彼らの歴史的建造物の修理に関する考え方や系譜を把握するためには他の建築設計活動や教育環境などをも視野に入れてさらに検討する必要があると考える。
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