本研究は東アジアにおける歴史的な建造物の保存修復のあり方を再評価する目的で行っている。具体的には、韓国を研究対象として、20世紀前半に日本からもたらされた近代的な修理工事がその後の韓国の修理技術者の系譜と技法の伝承に与えた影響について解明することである。 本年度はまず、戦前期の建築界の事情を窺える史料として『朝鮮と建築』、戦前期の日韓の文化財修理技術者の情報交流の場となっていたと思われる同人誌『清交』をはじめ、当時韓国で活躍していた人物らの著作などを中心に、日本の文化財修理が韓国の文化財保護に及ぼした影響と情報・人間のネットワーク、修理技術者らの経歴や活動などに注目してそれらを探る作業を行った。その成果の一部として、『清交』で見られる韓国(当時は朝鮮)の文化財修理と関わる記事、修理技術者らについては、2012年春季韓国建築歴史学会において口頭発表する予定である。 次いで、戦前に日本人修理技術者らが監督となって行われた歴史的建造物の修理に関する戦後の評価を把握することに注力した。その手法として、戦後の韓国文化財修理現場の様子を窺える史料である『考古美術』と文化財委員会の議事録を中心に調査を行い、修理現場ごとに再修理の有無、再修理となった理由、現場や文化財委員会にて修理において重視している箇所などについて情報を整理した。また、現在修理が進んでいる現場に関しては、現場視察を通して関係者に聞き取り調査を行った。 また、現在の韓国の歴史的建造物の調査手法とその記録方法においても日本とは異なることを勘案し、戦前期の韓国における歴史的建造物の調査手法についても関係者の証言を通して、その様子を再現することを試した。
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