平成22年度の成果は大きく3つあり、当初の計画を概ね遂行できたと考えている。 第一は、新日本製鐵(株)広畑製鐵所所蔵の福利厚生施設関連資料の収集と整理である。収集し得た資料は施設配置図が中心である。いずれも建物の外形を把握できる縮尺であるため、社宅街の構成を把握する上で有効であった。また、国土地理院所蔵の旧版地図(1/2万5000)大正15年~昭和57年のうち7年分を入手した。このほか、京都工芸繊維大学大学院生の協力を得て、横河工務所所蔵図面(寮など)の閲覧、複写を完了した。ただ、社宅図面は入手できておらず今後の課題となった。 第二は、社宅街拡大の変遷の把握である。製鉄所所蔵資料と旧版地図の情報に『広畑製鐵所三十年史』、『広畑日誌』の内容を加えて空間的な広がりを検討した。その成果を旧版地図へプロットし、相互の位置関係を視覚化した。また、京見社宅街の配置図をリライトしたものを合わせ日本建築学会学大会へ投稿した。このほか、入手済であった進来要『建設ヲ顧ミテ』(昭和16年)を中心に広畑における製鐵所建設の経緯と社宅街の展開を追い、室蘭製鐵所と比較した論考をまとめ、日本建築学会若手奨励特別研究委員会の『企業経営都市の盛衰とその空間構成』(平成23年3月)に所収した。 第三はドイツ・ルール地方の企業住宅地調査である。本調査では神戸大の中江博士にご案内いただき、世界的鉄鋼メーカーの現ティッセン・クルップ社(エッセン中心)と同社の操業を支えた石炭企業(ボーフム/デュイスブルグ/オーバーハウゼン)の社宅街の現況を確認した。併せて、工場、社宅街および産業遺産を元とするエムシャーパークに関する資料の収集を行なった。クルップ社の資料館では社宅配置図や古写真を確認できた。本課題の範疇を超えるが、当該資料の全貌および同社と日本企業の繋がりを把握しその影響を検討することが今後の課題となり得る。
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