最終年度は、広畑製鐵所の特徴を相対的に把握するため、民間から日鐵合同に参加した室蘭と釜石との比較、また、海外事例との比較を目的として研究に取り組んだ。 室蘭と釜石については、広畑の補足調査を兼ねて(1)神戸地方法務局姫路支所(2)兵庫県公館(3)国立公文書館・国立国会図書館・後藤・安田記念東京都市研究所で、都市計画関連資料や特に昭和20年代の不燃化に関する資料の収集と分析を行なった。(1)では旧土地台帳を中心に、用地取得の状況や地目を把握した。(2)では京見と幹部社宅の最終候補地となった苫編における住宅営団の計画を図面レベルで把握でき、計画と実現された住宅地の相違点を把握した。(3)では企業による計画と法定都市計画相互が各々計画を推進する様相を把握した。 室蘭と釜石の違いは、開発年代の違いによって広畑では都市計画が同時に進行すること、進来要の言説における石炭供給地近接の室蘭、鉄鉱石供給地の釜石との違いが敷地選定に大きく現れていることが明らかになった。都市計画的な視点では、大正6年開発の鞍山製鉄所の計画の類例といえるが、広畑は大都市近接という点で異なる。とりわけ、旧姫路市域に近接する広畑では、福利厚生施設の一部を市内の民間施設を借り上げて当てること、通勤者を念頭におき、社宅供給数が少ないことが明らかになった。また、全体の計画を先行させつつも、将来の拡大に備えて土地を確保する点で、アメリカ中南部の紡績業都市であるキングスポートに類似することが理解できた(研究分担者である基盤(B)での調査成果)。なお、室蘭と釜石について収集できた新規資料により、室蘭は日本建築学会計画系論文集(2013.7掲載決定)、釜石は日本建築学会大会梗概にそれぞれ投稿した。今後、広畑製鐵所の土地選定、取得経緯と社宅街の開発の特徴、開発を指揮した進来要の言説と実際の開発に関する視点で成果公表を行ないたい。
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