本年度は倉庫建築の屋根架構について検討した。通常、隅木は梁・桁に対して45度の方向とするが、倉庫建築については、この隅木の方向を変える振隅という技法が用いられたことが、修理工事を通して知られている。 この振隅について検討したところ、振隅が奈良時代の校倉に限定して用いられる手法であること、二方向に出す組物との関係が深いことが明らかとなった。地方においても多く検出される総柱遺構を検討するうえで重要な成果であるまたこの倉庫建築の技術が寺院建築などとは異なる系譜の技術である可能性があり、この成果を日本建築学会関東支部研究会において発表した。 またかねてより、研究会を開催してきた実忠研究会の成果を受けて、東大寺創建大仏殿に関する復元研究をおこなった。奈良時代の最高級と目される建築技術について検討し、中国の規模大きい単層裳階付の建物との関係を検討した。 裳階に関しては、発掘遺構と現存遺構の両面から検討し、二重の仏堂という観点から整理と変遷を推察し、その成果を『佛教芸術』にて発表した。すなわち二重基壇と裳階による構成から、法隆寺金堂のような二重の建物、その後、薬師寺金堂のような二重裳階付、さらには興福寺金堂のような単層裳階付へと変化していた。柱の形状や柱間をみると、裳階空間が従属的であったものが、次第に主屋と近似してくることを指摘した。東大寺大仏殿の検討と合わせて、「二重」という視覚的要素をもった第一級の建築の変遷や位置づけの一端を明らかとすることができた。
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