2012年度は、前年度に収集した現生材、古材による年輪幅の計測と分析を完了させたほか、近畿地方と四国地方において、引き続き古材に関連した年輪計測用試料の収集を進めた。 前年度に収集した現生材については、九州大学付属宮崎演習林(宮崎県椎葉村)のツガ生立木から採取したコア試料の年輪幅を計測し、次いで各種年輪データ処理プログラムによる平均値パターンの抽出と、他地域産の現生ツガ年輪データとのクロスデートを実施した。その結果、1グループ(1822~2011年)に関して、鹿児島県屋久島産現生材に対する照合が成立したが、それ以外は照合成立には至らなかった。 古材試料の収集は、當麻奥院本堂(奈良県葛城市)や称念寺(同橿原市)において実施中の解体修理工事の進捗に合わせておこなったほか、新たに旧立川番所書院(高知県大豊町)、松山城(松山市)、上芳我家住宅(愛媛県内子町)にて年輪計測用画像を取得した。前年度取得分の計測、分析作業は、高知城の現用木部材から作成した平均値パターンと、願泉寺(大阪府貝塚市)のツガ古材パターンの間で高い相関を確認するなどの成果を得た。これは、願泉寺材の産地が高知とその周辺であった可能性を示すものであり、将来の具体的な産地推定につながるものである。しかし、基準パターンの大幅な延長や空白の解消に資するデータについては、期間内に得ることができなかった。 なお、前年度収集した當麻奥院方丈(奈良県葛城市)のツガ古材データにより同建物の履歴に関する成果を得たほか、対照試料としてのヒノキ古材パターンの整備に関連して、願泉寺(前掲)でかつて収集した打刻印を有するヒノキ材の年輪データにより、談山神社権殿(奈良県桜井市)に使われたヒノキ材の産地を特定する成果を得ることができたので、それぞれ2012年6月に開かれた日本文化財科学会第29回大会で報告した。
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