本年度は、金属ガラスの局所構造と準結晶構造の相関を明らかにするため、特に準結晶析出系のZr-Pt合金に着目して構造解析を行った。用いた手法は、前年度までに開発した「オングストロームビーム電子回折法」であり、金属ガラスの局所構造である原子クラスターと同等なサイズの領域から電子回折を取得することが可能である。解析の準備段階として、Zr80Pt20アモルファス合金の構造モデルを第一原理分子動力学計算により作製した。得られた構造を調べたところ、大多数の原子クラスターは液体やガラス構造で重要とされる20面体構造に関係していることが判明した。そこで、この20面体原子クラスターの様々な方向から予想される回折パターンを計算した。実際の電子回折実験においては、20面体に特徴的な5、3、および2回軸パターンは得られるものの、非常に歪んだ不完全なものであった。これは計算で得られたものと良い一致を示していた。また、もっとも高頻度で得られたパターンは単純なものであり、最密充填結晶である面心立法構造から得られたパターンに類似していた。解析の結果、このようなパターンは5回対称軸からわずかに傾けることによって得られるものである、歪んだクラスターに特徴的なものであることが明らかとなった。また、20面体構造を歪ませることにより、容易に面心立方構造的な原子配置に変形できることがわかり、本合金の局所構造は歪んだ20面体構造が代表的なものであると思われる。さらに、同一組成の正20面体、歪んだ20面体、および面心立方構造の各12配位孤立クラスターのエネルギー計算をしたところ、この歪んだ20面体クラスターは正20面体よりも不安定ではあるものの、面心立方構造とほぼ同等であることが明らかとなり、このような歪んだクラスターが連続的に繋がることによりガラス構造全体のエネルギーを安定化させているものと推察できる。
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