研究概要 |
従来,レーストラックメモリや磁性細線を用いた論理演算素子では,磁壁を制御するため狭窄構造をはじめとする形状の変化に基づくピニングサイトが用いられている.このようなピニングサイトでは,素子挙動が作製時に固定される.これに対し,本研究応募課題では,隣接する微小磁性体の発する局所的な外部磁場を利用した動的ピニングサイトを構築すること目的とし,研究を進めてきた.以下に本年度の研究成果について述べる. 本年度実施予定であった,1.試料作製条件の最適化,ならびに2.磁気力顕微鏡の高感度化,3.磁性ドットに対する磁化状態制御プログラムの作製が完了した.上記手法を用い,4.実際に作製した素子において隣接する磁性ドットの磁化状態が,外部磁場で駆動される磁壁へ与える影響について検討した.ここでは,磁性細線における新規ピニングサイトとして,狭窄構造ならびにその狭窄構造に隣接した2つの磁性ドットを提案・作製した.磁場駆動により磁壁を導入・駆動し,磁性細線における磁化状態の外部磁場依存性を測定した結果,磁性ドットの磁化方向の組み合わせに依存してデピニング磁場強度が変化する事が明らかとなった.また,このデピニング磁場強度の差は,磁性ドット・磁性細線間距離の増加とともに減少した.このことからも,磁性ドットの磁化状態を変化させることで,デピニング磁場強度を動的に変化させている事が確認された. 本手法は,磁壁のデピニング磁場強度,すなわち磁壁の制御条件を動的に変更させた初めての提案であり,本手法を用いることで,従来のハードディスク等では難しかったデータの断片化が起こらない理想的なデータストレージを作製することが可能となる.また,本手法と,磁性細線を用いた論理回路とを組み合わせることで,さらに高機能な磁性細線デバイスを作製可能となり,今後,本手法が広く使用されると期待している.
|