レーストラックメモリ等の磁性細線を用いたデバイスでは、磁性細線内の磁化の向きにより情報を保持し、電流により情報を移動させる。情報を移動させるための条件は、磁壁を一時的にピニングするピニングサイトにより決定される。一般的に、このピニングサイトには、狭窄構造等の磁性細線の形状を変化させたものが使用されている。しかし、これらの構造を用いた場合、磁壁のピニング条件は素子設計時に決定されてしまう。これに対し、本研究課題では、動作時に磁壁のピニング条件を変更可能なプログラマブルピニングサイトを提案することを目的とした。 具体的には、磁性細線に隣接する微小磁性ドットの磁化方向を制御することで、磁性細線内を伝搬する磁壁の挙動を制御することを試みた。その結果、磁性細線内にTransverse磁壁がある場合、磁性細線両側に隣接させた合計4つの磁性ドットの磁化方向を制御することで、磁壁の伝搬条件を制御できることが明らかとなった。また、本手法と、量子ドットセルラオートマタ(MQCA)とを併用する事で、MQCAにより伝搬条件を制御可能なレーストラックメモリを構築できることが明らかとなった。 本研究成果を、高密度記録が期待されているレーストラックメモリ等へ応用することで、データ移動の有無を局所的に制御することが可能となる。すなわち、連続的に記録されているデータの特定部分のみを移動させることにより、データの連続性を維持できる理想的なストレージデバイスの構築が可能となる。本研究成果を用い、データベース等に保管される大容量データをインデックス順に保存する事で、データの保守管理が容易となるばかりで無く、データに対する処理速度の向上が見込まれる。このため、今後、本手法が広く使用される事を期待している。
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