研究概要 |
本研究は、電界印加で誘電率のチューナブル特性を示す立方晶の(Ba,Sr)TiO3薄膜において、従来あまり注目されなかった立方晶格子の歪み方位依存性を実験的・理論的に明らかにし、方位制御により歪みに対して安定なチューナブル特性の設計を目指すものである。具体的には、熱膨張係数が異なる基板や圧電体基板上に各方位の(Ba,Sr)TiO3薄膜を成長させ、歪みに対する誘電応答の結晶方位依存性を明らかにし、理論予測との比較・検討を行う。得られた知見を基に、フレキシブル基板上に歪み安定な方位の(Ba,Sr)TiO3薄膜を成長させ、動作安定性の検証を行う。本年度は、(Ba,Sr)TiO3薄膜の歪みに対する誘電応答の結晶方位依存性を明らかにするために、(Ba,Sr)TiO3と熱膨張係数が異なる基板(CaF2, MgO, KTaO3)上に(Ba,Sr)TiO3薄膜を成長させ、薄膜の成長過程、残留歪み、誘電応答を調べた。その結果、1.(Ba,Sr)TiO3の約2倍の熱膨張係数を有するCaF2基板上では大きな面内圧縮歪みを有する(Ba,Sr)TiO3薄膜が成長すること、2.CaF2基敬上にSrRuO3/Pt電極バッファー層を導入することで、(111)エピタキシャル成長した(Ba,Sr)TiO3薄膜が得られること、3.(Ba,Sr)TiO3よりも小さな熱膨張係数を有するKTaO3基板上では面内引張り歪みを有する(Ba.Sr)TiO3薄膜が成長すること、4.面内圧縮歪みの場合、(100)配向膜では強誘電相転移温度が大きく上昇するのに対し、(111)配向膜では強誘電相転移温度はほとんど変化せずむしろやや低下すること、が明らかになった。今後は、圧電体基板上に(Ba,Sr)TiO3薄膜を成長させ、基板の圧電歪みを利用して薄膜の歪みを制御することを試みる。これにより、歪みに対する誘電応答の結晶方位依存性をより系統的に明らかにする。
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