研究概要 |
本研究は、電界印加で誘電率のチューナブル特性を示す立方晶の(Ba,Sr)TiO3薄膜において、従来あまり注目されなかった立方晶格子の歪み方位依存性を実験的・理論的に明らかにし、方位制御により歪みに対して安定なチューナブル特性の設計を目指すものである。具体的には、熱膨張係数が異なる基板や圧電体基板上に各方位の(Ba,Sr)TiO3薄膜を成長させ、歪みに対する誘電応答の結晶方位依存性を明らかにし、理論予測との比較・検討を行う。得られた知見を基に、フレキシブル基板上に歪み安定な方位の(Ba,Sr)TiO3薄膜を成長させ、動作安定性の検証を行う。 これまでに、様々な基板を用いて結晶方位と歪みを制御した(Ba,Sr)TiO3薄膜の誘電応答を評価し、薄膜の歪みが誘電応答に与える影響の結晶方位依存性の理論予測が妥当であることを示した。具体的には、(111)薄膜は(100)薄膜に比べて歪みに対する誘電応答の変化が小さい可能性が示唆された。本年度は、歪みに鈍感な(111)薄膜のフレキシブルデバイスへの応用を見据えて、基板上に作製した薄膜を外部応力で動的に歪ませ、そのときの誘電応答を評価した。本実験では、結晶方位依存性を正確に評価するために、高い結晶性が実現できる酸化物単結晶を基板として用いた。これらの基板上に(100)および(111)配向した(Ba,Sr)TiO3薄膜を成長させ、3点曲げ試験機(共同研究先)を用いて薄膜を歪ませ、そのときの誘電率の変化を測定した。その結果、(100)薄膜の誘電率が引張り及び圧縮歪みに対して大きく変化したのに対し、(111)薄膜では誘電率が歪みに対してほとんど変化しなかった。得られた結果はランダウ理論に基づく予測と一致する。
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