未ドープのC12A7結晶が合成できる条件をもとに、CaサイトへのY又はLuの置換ドーピング、Alサイトへの置換ドーピングとしては、Si、Ge、Zr、Hf、Nb、Ta、Snのそれぞれの元素を試みた。圧力を2.5GPaで、温度900℃から1300℃まで変えて合成した結果、C12A7結晶単相を得ることはできなかった。不純物として生成した相の構造はおよそ2種類に分けられ、1つはペロブスカイト構造系であり、もう1つはガーネット構造系であった。これら2つの構造は目的とするC12A7結晶がとるマイエナイト構造よりも密度が高い結晶構造である。一般に、物質に圧力を印加していくと、圧力の増加にともない、物質の構造はより密度の高い構造にその結晶構造を変えていく。つまり、本結果は、合成時の圧力がマイエナイト構造の安定に存在しうる圧力領域よりも高かったため、その圧力領域でより安定である、より密度の高い構造へ移ってしまったことが示唆される。 一方で、圧力誘起による構造相転移の臨界圧力は、同じ結晶構造の物質でも、その構成元素の大きさにより異なることが知られている。そこでマイエナイト構造が安定である圧力領域を見積もるために、構成元素がCaでなくSrであり、同じ結晶構造をとる12SrO・7A1203(S12A7)結晶の高圧合成を試みた。高圧合成のパラメータとして、圧力、温度、及び原料中のOH濃度を変化させた。結果、圧力0.5~0.7GPa、温度500℃-600℃程度でのみS12A7結晶が生成することが認められた。つまり、2.5GPaより低い圧力領域でしかS12A7結晶は生成せず、このことは、C12A7結晶へのドーピングにおいて、ドーパントとなる元素の大きさに応じて合成圧力をより密度の高い構造、ペロブスカイト構造やガーネット構造が安定にならないように調整する必要があることがわかった。
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