研究概要 |
層状ペロフスカイト構造をもつルテニウム酸化物は,スピン三重項超伝導や遍歴・局在メタ磁性,さらには遍歴強磁性など,多様な基底状態に富む.これらの新規現象は化学量論組成においてみられ,物性を担うルテニウム(Ru)-酸素(0)から構成される平面(RuO2面)の歪みや傾きが縮退したRuの4d軌道と密接に関連して多様な物性が発現する.今回,われわれはRuO2面内に強磁性的相関をもつルテニウム酸化物Ca3Ru2O7に着目し,Ru(S=1)を結晶中で同じ4価をもつ非磁性不純物チタン(Ti)で一部置換した.置換をしていないCa3Ru2O7の金属的基底状態から,わずか0.2%のTi置換により,低温での電気抵抗率が4桁以上も上昇する「金属-絶縁体転移」を見いだした.しかも,その転移温度はTi濃度とともに上昇する.さらに誘起した絶縁体状態は,磁場印可により金属状態になる,いわゆる巨大磁気抵抗効果もみいだした.これまで置換をしていないCa3Ru2O7では,伝導面に平行に磁場を印可した場合のみ,局在メタ磁性に関連した電気抵抗の変化が見えていた.これに対し今回の結果の特徴は,置換したCa3Ru2O7では磁場方向が伝導面に垂直方向であることを含め,どの方向に磁場を印可しても巨大磁気抵抗効果が見られたことである。さらに磁化測定の結果は,置換したCa3Ru2O7ではRuに起因する局在スピンが,伝導面間方向にも成分を持つことを強く示唆している.これは,置換をしていない系では伝導面内に張り付いた強磁性的スピン構造をもつこととはきわめて対照的である.一連の実験から,この系では磁場に敏感な系のスピン構造が伝導現象に極めて大きな影響を与えることを意味している.すなわち,磁性薄膜でみられるいわゆるスピンバルブ効果が,元素置換をしたバルクのCa3Ru2O7でも見られたことから,機能性材料としての可能性を持つことを示唆している.
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