大型放射光施設SPring-8にて、室温で超伝導複合線材に軸方向の引張ひずみを負荷し、線材内部の超伝導薄膜に発生する格子ひずみの変化をその場測定した。特に膜の面内方向の2次元ひずみ状態を明らかにするために、超伝導膜のa、b軸ともに下地中間層とブラッグピークが分離できるGdBCOを材料として選択した。さらに、同じ負荷ひずみに対して異なる内部ひずみ状態を与えることを目的として、面内配向方位の異なる2種類のGdBCOを用意した。a、b軸が線材軸または幅方向と平行に配向したGdBCO膜(Gd-0°)では、軸方向に引張、幅方向に圧縮の異方的2次元ひずみ状態にあることを確認した。一方、a、b軸が線材軸から45°回転したGdBCO膜(Gd-45°)の場合は、a、b軸ともに引張ひずみ状態であり、かつ負荷ひずみに対する格子ひずみの変化は前者の1/3と小さいことが明らかになった。 これらの線材について77K、自己磁場下で臨界電流一ひずみ特性の測定を行った。その結果、臨界電流のひずみ感受性はGd-0°の方がGd-45°よりもかなり高いことが明らかになった。このひずみ感受性の違いは発生する内部ひずみの違いにより定性的に説明できた。 これらの実験結果を、臨界電流がa、b軸の内部ひずみの2次関数に依存して変化するという仮定に基づいて整理したところ、臨界電流は、a軸ひずみの増加に伴い減少し、b軸ひずみの増加に伴い増加することが示唆された。 以上の結果から、臨界電流のひずみ依存性に及ぼす微視的要因の一つとして、結晶の配向方位の違いに伴う2次元ひずみ状態の違が寄与することを明らかにした。
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