平成24年度には,より現実に近い成形流動シミュレーションの開発に取り組んだ。まずガラス長繊維をリブへ押し込む可視化金型を製作した。ガラス繊維が粘性流体の流動とともに2つに折れ曲がるように変形しながら流動する様子を観察した。この繊維の挙動を,平成23年度までに開発した非圧縮性流れと弾性体の解析を連成させた粒子法で予測した。解析での粒子サイズと繊維の直径には大きな差が存在するため,繊維が流体から受ける抗力に注目した補正係数を弾性率に乗じることで,実験での繊維の挙動を再現した。さらに,複数の繊維が変形しながらリブへ流入する様子を表現でき,繊維含有率の増加につれて必要なプレス圧力が増加する現象を再現した。 また,ガラスキャピラリーチューブを並べて繊維束断面に見立てた模擬RTM金型を製作し,繊維束内のマイクロボイドの形成プロセスを観察した。繊維束内よりも大きい速度で繊維束間を流動した樹脂が繊維束内に回り込み,繊維束内に気泡が捕捉されてボイドが形成された。 粒子法解析において,2つの粒子間にLennard-Jones型ポテンシャルを設定し,その勾配を外力として運動量保存則に加えることで,樹脂の表面張力と繊維/樹脂間の濡れ性をモデル化した。RTM成形解析を実施し,繊維束内のマイクロボイドの形成を予測した。繊維束の外側から樹脂が回り込むマイクロボイドの形成プロセスは観察結果と一致した。また,予測したボイド含有率は報告されている実験結果とおおむね一致した。 さらに,成形後の繊維配向の情報を利用し,弾性率を予測する手法を構築した。粒子モデルでの繊維配向分布から配向分布関数を求め,これを配向テンソルに変換した。配向テンソルから成形材のスティフネステンソルを予測するモデルを適用し,弾性率を計算した。 以上より,構築した成形シミュレーションを複合材成形模擬実験や文献と比較し,その妥当性を示した。
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