研究課題/領域番号 |
22760531
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
本多 善太郎 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (30332563)
|
キーワード | 有機磁性体 / 分子磁性体 / 室温強磁 / フタロシアニン |
研究概要 |
金属フタロシアニンは光書き込み式ディスクや有機太陽電池への応用が期待されている多機能材料である。一方、磁性の観点からは、フタロシアニンは中心に遷移金属や希土類元素を含むことが多く、それらの元素の不完全殻に由来する磁性を示す分子磁性体であることが知られているが、キュリー温度が低く実用材料にならない。ところが、最近、我々はフタロシアニンを真空中で金属カリウムと加熱処理することで室温強磁性を示すことを明らかにした。本研究では、アルカリ金属添加フタロシアニンの実用有機磁石としての可能性を明らかにすることを目的として、強磁性発現条件及び機構の解明を目指している。 昨年度に引き続き、遷移金属フタロシアニン結晶へのアルカリ金属添加による磁性の調査を行った。具体的には鉄、コバルト、ニッケルフタロシアニンに対するアルカリ金属との加熱温度及び反応時間と磁性の関係、添加するアルカリ金属の種類(リチウム、ナトリウム、カリウム)と磁性の関係を調べた。その結果最も高い飽和磁化値を示す試料が得られる加熱温度が約400℃前後であり、リチウムに比べナトリウム、カリウムを添加したフタロシアニン結晶がより高い飽和磁化値を示すことを明らかにした。 マンガンフタロシアニン重合体が室温において強磁性を示すことを見出したことを受けて、フタロシアニン重合体とその磁性に関してより詳細に調査を行った。その結果、強磁性を示すフタロシアニン重合体はマンガンのみで、中心金属が鉄及びコバルトの場合は反強磁性を示すことを明らかにした。また、マンガンフタロシアニン重合時の加熱温度と飽和磁化の関係を調査し、最も高い磁化値が得られる重合条件を明らかにした。さらに、X線回折法、電子顕微鏡を用いた微小領域観察により、強磁性を示す重合フタロシアニンにおいて中心金属の析出が起こっていないことを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究目標である、金属フタロシアニンへのアルカリ金属添加による強磁性発現の条件(中心金属の種類、添加物、加熱温度、時間等)に関して十分な知見が得られた。また、本研究の過程において、フタロシアニン重合体における高キュリー温度強磁性の発見という新たな研究成果が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
1.マンガン、銅フタロシアニンとアルカリ金属との反応及び生成物の磁性の評価 単体では強磁性を示さないマンガン及び銅を中心金属とするフタロシアニンへのアルカリ金属のドープを行い、磁気測定によりアルカリ金属添加フタロシアニンの磁性の原因が中心金属の脱離による強磁性金属ナノ粒子によるものか、それともフタロシアニン分子による分子磁性であるか明らかにする。 2.フタロシアニン重合体における強磁性発現条件の解明 様々な中心金属を有するフタロシアニン重合体を合成し、磁気測定により強磁性発現の条件を明らかにする。また、X線回折法、赤外吸収、可視紫外吸収スペクトル等から生成物の構造に関する知見を得、反応物の構造と磁性の関係を明らかにする。
|