近年、金属材料のさらなる高性能化を目指す上で不可欠となる極めて重要な技術として、・結晶粒レベルでの不均一変形のその場観測が注目されている。しかし、現存の手法では、その場観測によるひずみ計測の空間分解能は数10nmに迫っているものの、応力測定はリアルタイムの計測はおろか、その空間分解能は1μmのオーダーにしか達しておらず、両者の「時空間的ミスマッチ」が問題となっている。そこで本研究では、SEM-EBSP中の高次ラウエ帯反射に着目し、「応力テンソルの絶対値」を「リアルタイム」に求めることが可能な「汎用超高分解能応力測定手法の開発」を行うことを目的とした。SEM-EBSP中のHOLZ反射を用いる上で解決すべき問題点は、「動力学回折効果の影響」と「エネルギー分散の影響」の2つあり、これらを適切に評価し補正する手法を碓立する必要がある。初年度は、前者の問題を解決する事を主眼に動力学回折強度計算を用いた応力測定プログラムの開発並びにエネルギーフィルターを用いたEBSP解析システムの設計を行った。本年度は、SEM中に設置するエネルギーフィルターの設置並びにシリコンの単結晶基板を用いたEBSP像の取得を行い、微小なひずみを付加した時に生じる高次ラウエ帯反射の変化をあきらかにすることを目的とした。その結果、エネルギーフィルターを用いないEBSP像においても、高次ラウエ帯反射によるコントラストを検出可能なことや、高次ラウエ帯反射は低次の回折像である菊池線よりもはるかにひずみ変化に敏感であることが確認できた。以上の知見を元に、動力学回折強度計算を用いた応力手法を実際に得られたEBSP画像に適用することで10^-5程度の微小ひずみを精度よく計測できることが示された。
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