先進高効率火力発電プラントの高温部材として使用されている改良9Cr-1Mo鋼(ASME Gr.91)について、長時間クリープ変形(約10万時間相当)に伴う転位組織および析出相変化について調査し、実機において問題となっている長時間クリープ強度低下との関連を検討した。クリープ中断試験片平行部の硬さは、約3万時間程度まであまり変化せず、それ以降急激に硬さが低下した。マルテンサイトラス組織におけるサブグレイン径およびサブグレイン内の転位密度は、クリープ変形の進行に伴い約7万時間程度までそれぞれ緩やかに増加および減少したが、7万時間以降急激に変化した。サブグレイン径と転位密度の変化は、クリープひずみ量と良く相関していることが知られているが、実際、クリープ曲線から約7万時間まではクリープひずみ量が小さく、それ以降急激にひずみ量が増加することが確認された。また、約5万時間中断材では、旧γ粒界近傍のサブグレイン径は、粒内のそれに比べて大きい傾向が認められたが、破断後は観察視野全面においてサブグレイン径が増加し、回復していた。有害相と考えられているZ相は、約1万時間中断材において観察され、クリープ変形の進行に伴いそのサイズが大きくなり、数密度も増加した。Z相の析出に伴い、強化因子であるMX炭窒化物が消失し、クリープ破断後のMXの析出数密度は、クリープ変形前に比べて約一桁低下した。破断後のZ相の析出数密度も甑のそれとほぼ同程度で、MXとZ相を合わせても数密度はクリープ変形前の1/8程度であり、Z相析出とMX消失により、析出強化の程度が著しく低下していることが分かった。従来、クロム量の少ない改良9Cr-1Mo鋼では、12Cr鋼などと比べてZ相の析出は問題とされてこなかったが、本研究結果より、改良9Cr-1Mo鋼においてもZ相の析出によるクリープ強度低下が無視できないことが明らかとなった。
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