ニッケル基単結晶合金は飛行機や発電用のタービンエンジンのブレード材料として用いられている。タービンエンジン内部は高温と回転応力という過酷な環境下になるため、ブレードの予期せぬ破損が起こる事がある。ブレード破損に起因する機器の故障は、人命および経済的損失と直結するため、損傷の評価技術が必要とされている。タービンブレードの使用状況を考慮した場合、材料に与えられる影響は高温下で一定応力を負荷し続けた状態、高温クリープ変形に相当する。本研究は高温クリープ変形によって起こるニッケル基単結晶超合金の損傷個所と状況を調査している。損傷に対するミクロ組織の変化を非破壊で定量的に観察する方法として、量子ビーム(X線や中性子線)の回折現象を用いた材料評価法が有効と考えた。平成22年度は、研究に用いるニッケル基単結晶超合金の製造、高温クリープ試験、中性子回折実験を実施し、研究の進捗を国内学会で発表した。クリープ変形量の違うニッケル基合金の試験片について、材料内の結晶方位分布を回折実験によって調べた。その結果、クリープ変形初期には見られなかった局所的な結晶方位の変化がクリープ変形後の試験片に見られた。局所的な結晶方位の変化は螺旋状であり、すべり変形の蓄積により引き起こされた結晶回転と考えられた。局所的な結晶方位の変化はクリープ変形量が増加するに従って顕著に見られ、この部位を起点として破断することが予想された。また、変形の尺度として、結晶格子の歪みも測定し現在結果を検討している。また、ニッケル基合金の回折実験を高温変形中に行い変形の様子を詳細に調査する研究を平成23年度に計画し、そのための材料準備と予備的実験を行った。高温変形中の回折実験はより短時間で測定することが課題であったが大強度の中性子線施設を利用し、試験材の配置とデータ集積の工夫で可能であることが分かった。
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