本年度は航空機用の(α+β)型合金Ti-6Al-6V-2Sn合金およびβ型合金Ti-10V-2Fe-3Al合金のマルテンサイト組織とその加工・熱処理過程およびAl組成を変化させた時の組織変化および機械的特性を評価した。Ti-6Al-6V-2Sn合金において、1100℃で熱処理後、水中に溶体化焼入れ処理を施した組織は針状のマルテンサイト組織を呈しており、19.2%の極めて低い冷間圧延加工性(限界圧延率)を示していた。これは、後に述べるが、多量のAl添加に伴う、転位運動の不均一性(プラナーな形態)に起因する。一方でAl量を減少させると、例えばTi-6V-2Sn合金のマルテンサイト組織において90%以上の優れた冷間圧延性を示すようになる。変形過程の転位運動の形態も均一であり、更に柱面<a>すべりに加えて底面<a>すべりの活動も確認され、双晶の活動も確認できたことから、多数の活動すべり系・双晶系が運動したことが理解できる。一方、引張延性について観てみると、マルテンサイト組織を有するTi-6Al-6V-2Sn合金においても10%以上の良好な室温延性(Ti-6V-2Sn合金と同等)を示していたことから、平面ひずみ状態における極めて圧延性が悪い要因について、活動するすべり系乙の違いだけでなく、他の要因も考えるべきである。これは今後の課題である。またこのマルテンサイト組織の熱処理過程において500℃までの低温熱処理下においてはTi-6Al-4V合金と同様に微細なβ相が析出し、著しく高強度化される(しかしながら延性は著しく低下)。この結果は低温熱処理を適切に組合わせることで、強度の調整が可能であることを示しており、工業的にも有意義な結果である。Ti-10V-2Fe-3Al合金についても、応力誘起マルテンサイト変態と低温熱処理を組合わせることで微細なα相析出を利用した高強度化が可能であった。
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